document/a(c)tion point of view

【暑い夏13】 E 「今、ここ」を味わう

2013年05月31日

 ダンスによって人と出会い、自分と出会い、空間と出会う。一部の人だけのものでなく、全ての人のためのダンス。フランスの国立振付センターのプログラムの中には、パフォーマーのためのダンスだけではなく、市民が何かを気付くためのダンスプログラムが見受けられる。代表的な取り組みとして、Michel Reihac(文化プロデューサー、アンジェ国立振付センターの芸術監督(1984-1987)、Forum des image(パリを代表する映画センター)ディレクター(1987-2002)を歴任。現在、Arte France Cinemaのディレクター(2002-))によって始められた、Bal Moderne(現代の舞踏会)がある。すぐにできる簡単な振付がその場で披露され、参加者はそれを真似て、時に集団で、時に誰かとペアで踊る。誰でも参加できるように、駅や公園など、アクセスしやすい空間で行われることが多く、1993年の初めて開催された時はエッフェル塔の向かい側、塔を望むコリーヌの丘の広場で、であった。一時、フランスでは下火になったが、近年ふたたび取り上げられることが多くなった。フェスティヴァルの講師、エリック・ラムルーやエマニュエル・ユインも企画に関わったことがあるという。去年(2012年)6月のフランス、アンジェに於けるBal Moderneの動画は動画サイトで見ることができ、舞台上で微笑むユインが映っている。

撮影:森下 瑶
撮影:森下 瑶

 この「現代の舞踏会」に関心を持ったのは、ダンスをより広く捉えたいと考えた為である。日本でダンスというと、とっつきにくい印象を抱かれやすくないだろうか。友人にビギナークラスを勧めた場合も、「今までやったことがないし、踊ることなんてできない」という反応が返ってきた。マルセル・カルネ監督の『天井桟敷の人々』という映画の中で、体面を気にして一歩踏み出せない主人公に対して、ヒロインが(欲しあう者にとって)「恋なんて簡単なのに」と言う一節がある。道具が必要な訳ではない。舞台装置が必要な訳でもない。体さえあれば、踊ることなんて簡単。なのに、どうして難しく考えられてしまうのだろうか。
 「上手く踊れない」「場違い」「踊ったことがない」・・・。ここに、他者の視線への過度な意識がありはしないだろうか。エマニュエル・ユインのワーク。ワーク後のアフタートークで、ユインが話したことが印象に残った。プロは踊っている時、踊っていながら、意識は一歩離れて自分の姿を見ているが、アマチュア、ダンサーでない人は、喜びや好奇心でもって、踊りの世界に入り込んでしまうのだ、と。格好よく踊ることも大切だと思う。圧倒的な身体を見せられるのもダンスの醍醐味だろう。ただ、それとは別に、体を動かして、踊りの世界に(他者、音楽、空間と関わりながら)入り込んでいく楽しみももっと知って欲しいと思う。アフタートーク時のとある参加者の言葉に次のようなものがあった。「今、ここにいられたから、楽しかった」。「今、ここ」、エリック・ラムルーは似たような意味で「Just」という単語を使った。日本語の概念だと、「一期一会」が近いだろうか。
 ビギナークラスは、全ての人に開かれている。それぞれの講師が、自身が今考えていることのエッセンスを2時間の中に(人によっては4時間)凝縮させる。そのエッセンスを通して、気付きの機会が与えられる。踊りを通して、自身と、他者と、空間と出会う。フランスに於ける、「現代の舞踏会」の機能(もっとも「現代の舞踏会」はごく一例にすぎないが)、ダンスに対して人々が感じてしまいがちな、とっつきにくさの壁を低くする機能を、暑い夏のビギナークラスは果たしているのではないだろうか。

E  ビギナークラス 5/2(木) コンテンポラリー・ダンスの多様性をまさにコンセプト的にも地理的にも満喫できる、イントロダクション・クラス。世界の第一線で活躍する講師による様々なスタイル、考え方のダンスに触れることができます。ダンスには興味があるけど敷居が高かった方、身体全般に興味ある方、アカデミックな関心のある方、世界のダンスに肌で触れたい方、ただただ動きたい方、それぞれの切り口で飛び込んでください。


prof_emmanuelleエマニュエル・ユイン (フランス/アンジェ)EMMANUELLE HUYNH 元フランス・アンジェ国立振付センター(CNDC)芸術監督。造形作家や音楽家など異分野のアーティストとの共同作業を開始し継続的に行うなど、鋭い批評的まなざしでダンスの再構築を進める彼女は、ドミニク・バグエ、トリシャ・ブラウンなど多くの著名な振付家の下で踊る。’01 年フランス政府派遣アーティストとしてヴィラ九条山に滞在。『AVida Enorme』(’08) 、『CRIBLES』(’10)を本フェスティバルでも上演。笠井叡とのデュエット『SPIEL』(’11)を発表するなど、日本との交流も深い。待望の再来日。(KIDFホームページより)

高田祐輔(たかた・ゆうすけ) 情報化社会の進展で生身で物事に接する機会が減り、ものを考えたり感じたりする土台となる原風景が、作られにくくなっているのではないかという問題意識を持っています。生身で物事と出会う装置としての都市をどう作っていくか、発見のきっかけとしてのダンスをどう紡いでいくかが、テーマです。フランス、パリをフィールドに、都市計画学を勉強中。ミーム・コーポレル、キューバン・サルサにも関心を持っています。

Translate »